いきなり退職代行から退職届が届いた
<退職代行サービスを通じた退職届受理への会社側対応方法>

当事務所の関与先企業において、退職代行サービスから「労働者本人直筆の退職届」と「委任状」が届いたという連絡があり、ご相談を受けたことがありました。

そこで、
退職代行サービスを通じた退職届の受理について、会社側の適切な対応方法を説明します。

1.民法627条1項に基づく退職の効力

民法627条1項により、期間の定めのない雇用契約では、労働者は2週間前の退職申入れにより一方的に退職することができます。これは使用者の承諾を要さず、退職代行業者を通じた退職届であっても、適法な退職の意思表示として法的効力を有します。

会社の対応
退職代行業者からの連絡であることを理由に退職を拒否することはできません。退職の意思表示が到達した時点から2週間経過により労働契約は終了します。

2.退職代行業者の「使者」としての位置づけ

退職代行業者は労働者の「使者」として退職意思を伝達するに過ぎず、代理人ではありません。使者による意思表示の伝達は、本人が直接行った場合と同様の法的効果を生じます。

会社の対応:
使者による伝達であっても有効な退職の意思表示として受理する必要があります。ただし、本人の真意確認は必要です。

3.弁護士法72条(非弁行為)との関係

退職代行業者が行える業務範囲には明確な限界があります。

適法性が認められる範囲:
退職意思の単純な伝達
退職日や有給休暇取得意思の伝達(ただし違法リスクが高まる)

明確に違法となる行為:
未払残業代請求
損害賠償請求
退職条件の交渉・協議

会社の対応:
退職意思の伝達以外の交渉事項については、退職代行業者との協議を拒否し、本人または適法な代理人からの連絡を求めてください。

4.令和2年ウエストロージャパン判決の示唆

同判決では、退職代行業者による退職意思の伝達について、「使者」としての行為は適法と判断される傾向が示されています。
ただし、業務範囲を超えた交渉行為については非弁行為として違法性が指摘されています。

5.本人の意思確認方法

退職代行業者を通じた退職の場合、本人の真意確認が重要です。

必須の確認事項:
本人署名または記名押印のある退職届の書面提出
委任状等による代行業者への委任の事実確認
退職日や有給休暇取得等の付随事項の書面による意思確認

会社の対応:
電話での連絡のみでは不十分です。必ず書面での意思確認を求め、事後のトラブルを防止してください。

6.業務引継ぎ義務違反と損害賠償請求

労働者には業務の引継ぎを求めることは可能ですが、引継ぎ完了を退職の条件とすることはできません。引継ぎを行わずに退職しても、退職自体は有効です。

損害賠償請求の可能性:
引継ぎ義務違反により会社に具体的損害が生じた場合
就業規則に引継ぎ義務が明記され、違反に対する罰則規定がある場合

ただし、立証責任は会社側にあり、実際の損害額の算定は困難なケースが多いのが実情です。

実務的な対応フローチャート

初期対応
□ 退職代行業者からの連絡を受理
□ 本人署名入り退職届の書面提出を要求
意思確認
□ 委任状の確認
□ 退職日・有給休暇等の書面による意思確認
業務整理
□ 引継ぎ依頼(強制はできない)
□ 貸与物返還の手続き案内
最終処理
□ 2週間経過での退職手続き完了
□ 離職票等必要書類の準備

注意すべきポイント

交渉事項への対応:
未払賃金請求等は退職代行業者との協議を拒否し、適法な代理人を求める

書面での意思確認:
口頭のみの連絡では不十分、必ず書面での確認を実施

引継ぎの扱い:
協力要請はできるが、退職阻止の手段としては使えない