「1か月変形労働時間制」のシフトがあいまい
<1か月単位の変形労働時間制の就業規則上の留意事項>
令和4年に「1か月単位の変形労働時間制」に関する2つの判例が出ています。ウエストロー・ジャパン事件および日本マクドナルド事件です。この2つの判決から得られる重要な示唆を踏まえて、1か月単位の変形労働時間制を就業規則に規定する際の留意事項をお示しします。
結論は「就業規則上ないしその別紙(補助資料)に、その会社で行われるすべてのシフトパターンを記載し、かつ、変形期間内の各日・各週の労働時間(始業終業の時刻)を定めておくべきである」 ということです。
「うちは企業規模が大きいから全部のシフトを載せることはできない」とか「原則的ないくつかの勤務シフトパターンが書いてあるし、それ以外のシフトは、変形可能な範囲でそれに準ずる(から載せない)」というあいまいなやり方は、もはや通用しなくなりました。
具体的には、以下のようなプロセスが必要になります。
基本的な導入要件の確実な規定
まず、労働基準法第32条の2に基づく導入要件を就業規則に明確に規定する必要があります。
規定必須事項 | 具体的な記載内容 |
対象労働者の範囲 | 「全従業員」「営業部門のみ」など明確に特定する |
対象期間および起算日 | 「毎月1日を起算日とし、1か月を平均して1週間当たり40時間以内とする」 |
労働日および労働日ごとの労働時間 | シフト表や勤務カレンダーにより具体的に特定する |
始業・終業時刻 | 労基法第89条の絶対的記載事項として明記する |
判例を踏まえた特に重要な留意事項
1.労働時間変更の予測可能性の確保
ウエストロー・ジャパン事件および日本マクドナルド事件の判決趣旨から、休日振替や労働時間変更について、労働者が予測可能な程度に具体的な理由や条件を就業規則に明記することが重要です。
【推奨規定例】
第○条(休日の振替)
業務の都合により必要がある場合は、以下の事由に該当するときに限り、あらかじめ振替日を特定して休日の振替を行うことがある。
(1) 繁忙期における業務量の大幅な増加
(2) 緊急事態への対応
(3) その他会社が必要と認める合理的事由
2.事前特定の徹底
変形期間開始前に、期間全体の労働日・労働時間を完全に特定し、使用者の都合による任意変更を禁止する旨を明記してください。
第○条(労働時間の特定)
対象期間の労働日および労働日ごとの労働時間は、変形期間開始前にシフト表により特定し、従業員に周知する。
特定された労働時間は、原則として変更しない。
運用面での重要な規定事項
3.途中入退社者の取扱い
判例の趣旨を踏まえ、途中入社・退職者の時間外労働算出方法を明確に規定することが重要です。
第○条(途中入退社者の取扱い)
対象期間の途中で入社または退職した従業員については、
以下のいずれかの方法により時間外労働を算出する。
(1) 変形労働時間制を適用せず、1日8時間・1週40時間で算出
(2) 変形労働時間制を適用し、在籍期間に応じた総枠で算出
4.時間外労働の明確な定義
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の3段階判定を明記してください。
第○条(時間外労働の定義)
時間外労働は以下の合計とする。
(1) 1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えた時間
(2) 1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えた時間(前号を除く)
(3) 法定労働時間の総枠を超えた時間(前2号を除く)
法定労働時間の総枠管理
シフト作成時の上限時間を明確に規定し、判例で問題となるような運用ミスを防止してください。
歴日数 | 上限時間(一般) | 上限時間(特例事業場) |
28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
適用除外者の明確化
問題となりやすい適用制限対象者を明記してください。
第○条(適用除外)
以下の者には本制度を適用しない。
(1) 満18歳未満の者(例外規定は別途定める)
(2) 妊産婦が請求した場合
(3) 育児短時間勤務制度の適用を受ける者