倉庫の荷物が崩れ従業員が下敷きになってしまった
<労災・安全配慮義務>

ご存知のとおり、従業員の仕事中のけがや仕事が原因の病気には「労災保険」の適用があります。基本的なスタンスは、被災した従業員は「補償を請求する立場」です。

そして、会社はそれをサポートする立場です。この「使用者責任」を担保するために「労災保険」は強制加入となっています。会社のみが保険料を負担し、従業員の給料からは(雇用保険料のようには)引けません。

労基法にある「会社が支払う義務の負担」を、実質的には「労災保険法」の方でカバーをしています。

  • けが・病気の治療
    →労災(指定)病院なら「5号用紙」(療養の給付)
    →労災指定病院でない場合には「7号用紙(1)(療養の費用の給付)
  • 休業補償
    →平均賃金の60%+20%=実質80%補償

リスク管理の点からは、労災の「認定基準」と会社の「安全配慮義務」との違いを理解しておく必要があります。

「安全配慮義務」についての最高裁判例が、労働契約法第5条に明文化されています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)

労働契約上の「権利」と「義務」は、民法上の「債権」と「債務」と言い換えることができます。会社は労働者に対して「安全配慮義務」と言う「債務」を負っているという構図なのです。

さて、この日本で、「損害賠償(民法)」請求をする場合には2つの法的根拠があります。
A「債務不履行(債務を支払わない)から損害賠償請求する」
B「不法行為(悪いことをされて傷ついた)から損害賠償請求する」
の2つです。

会社が安全配慮義務を怠ったのは、従業員へのA「債務」でもあり、B「悪いこと」でもあるという考え方なのです。

だから、倉庫の荷物が崩れ下敷きになって大けがをしたので、「債務不履行」と「不法行為」で、弁護士に依頼して、会社を訴えることが可能になります。

このことは民法上の当然の権利です。しかし、弁護士の向井蘭先生など専門家は、以下の注意・警鐘を鳴らしています。

  1. 労災の認定自体は①「業務起因性(仕事が原因)」と②「業務遂行性(仕事中)」の2つで決まります(というか、この2つでしか決まりません)
  2. しかし、日本の裁判所(特に地方)の不見識によって、「労災の認定基準」と「会社の安全配慮義務」がごっちゃになり、「国が労災給付の支給を認めた」ということは「安全配慮義務も怠っていた」からだろう(とみなし)、一種の「みなし判決」を出すリスクがあります(会社は安全配慮義務は怠っていなくても、怠っていたとみなされるということです)。
  3. 要は、「労災給付はどうせ国がお金を支給するのだから、どんどん申請してしまえ」といったスタンスではだめということです。何でもかんでも押印(証明)すればいいわけではありません。誰もその被災現場を見た人がいないのに、従業員の給付のために「見た人がいた」ことにして申請をしますと、あとで裁判上の争いになったとき、上記のような不当な判決を呼び込む遠因になりかねません。

会社が「安全配慮義務」を怠っていたか? いなかったか? という問題と、その事故が「労災なのか? 違うのか?」という問題は、別の問題だということです。

最後に「労災隠し」についてです。

労災事故が起きて、5号用紙や8号用紙などの労災給付申請をしないでおこうとしても、それは「労災隠し」なのではありません。国に給付を申請するしないは自由だからです(費用を自腹100%で支払おうが、保険金を使おうがその人の自由。ただし仕事中なので健康保険は使えません)。

「労災隠し」とは「死傷病報告」を出さないこと、具体的には 23号用紙または24号用紙を出さないことを「労災隠し」と言うのです。

なお、通勤災害には「死傷病報告」がありませんので、労災隠しにあたるものも存在しません。

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